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最高裁判所第二小法廷 昭和25年(れ)1299号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人清瀬一郎、同内山弘の上告趣意第一点について。

本件は昭和二二年九月二九日公訴の提起があった事件であるから、原審が刑訴施行法二条により旧刑訴に従って審理し、窃盗罪の起訴に対しこれと事実の同一性ありとして賍物寄蔵罪を認定したのは当然である。しかるに所論は右のごとく起訴の罪名と異なる犯罪事実を認定することは許されず、かかる場名には訴を排斥するか、成は新刑訴に定める訴因変更の手続をとるの要ありと主張するのであってこれは右の刑訴施行法二条の規定をみだりに制限又は変更せんとすることに帰しよう。しかし刑訴施行法二条が憲法に違反しないことは当裁判所の判例(昭二三年(れ)第一五七七号、同二四年五月一八日大法廷判決)の示すところであるから原判決がこれに従ったのは正当であってこれに従ったことを目して憲法三七条乃至三一条等に違反するという論旨は法令の誤解を前提とするものであるから採用することができない。

同第二点について。

しかし、所論の原判決が証拠として挙示せるところの、第一審第一回公判調書中第一審相被告人北島鉄雄こと中島鉄夫、同日置一嘉同沖林五一の供述記載及び沖林五一に対する司法警察官警部代理の訊問調書の記載はいずれも判示事実の記載と相まって考えるとき、被告人が判示物品を寄蔵したとき盗品であることを認識していたことを証するものであること明白であって、証拠説示の方法としても欠くるところがないから、論旨は理由がない。

同第三点について。

公判請求書に記載された犯罪事実は「被告人小野雄作は同村(静岡県浜名郡積志村の意)西ケ崎日本通運株式会社西ケ崎出張所倉庫より国有綿を窃取せんことを企て其の実行者として被告人北島、同日置、同沖林等を選定し、同被告人等に対し右国有綿を窃取し来らば自己に於て之が処分は引受ける旨申向けたるに、右被告人等は之を諒承し、茲に被告人四名は共謀の上、同年(昭和二二年の意)八月二六日被告人北島、日置、沖林に於て右日本通運株式会社西ケ崎出張所倉庫に於て同出張所責任者平野猪三郎保管に係る国有綿糸二十番手八俵及中古リヤカー一台時価一万七十円相当を窃取したるものなり」というのであり、原判決の認定した事実は「被告人小野雄作は原審相被告人北島鉄雄こと中島鉄夫、同日置一嘉同沖林五一等が昭和二二年八月二六日頃静岡県浜名郡積志村西ケ崎所在日本通運株式会社西ケ崎出張所倉庫から窃取して来た国有綿糸二十番手のもの八俵の内計約六俵をその盗品たる情を知り乍ら右北島等の寄託を受け同年九月初旬頃同村西ケ崎一八二番地なる被告人自宅に蔵匿し以て賍物を寄蔵した」というのである。

さらに両者の関係を検討しよう。公判における審理の経過に徴すれば被告人に対する起訴の意味するところは被告人は公判請求書記載のごとく他の共犯者等と本件窃盗について共謀したが、窃盗の実行行為を分担しなかったのを、実行行為をした他の共犯者と共に共同正犯として起訴されたものであることは明白であり、次に原判決の判示事実を挙示の証拠によって理解するのに、被告人は公判請求書記載のごとく窃盗の共同正犯として責を負うに足る共謀に加わったのではないが、当時共犯者等が判示の日本通運株式会社西ケ崎出張所倉庫にて国有綿を盗むことを予て諒承していたものであって窃盗後、程経ずして盗品の一部を被告人宅に蔵匿して賍物を寄蔵したというのである。この両者に共通する事実としては昭和二二年八月二六日静岡県浜名郡積志村西ケ崎所在日本通運株式会社西ケ崎出張所倉庫を関係場所として同出張所所有の国有綿糸八俵が不法に領得されたことに被告人が関与した点であって、両者は互に密接の関係を有するのであり、起訴は被告人と共犯者との間の相談を共謀と認めて窃盗罪としたのに反して、原審はこれを共謀に至らずとして賍物寄蔵罪と断じた差異があるのみである。

之を要するに両者は基本的事実において同一性を保持しているものであり、加えて起訴依頼の訴訟の経過に徴するも原審が窃盗の起訴に対して賍物寄蔵罪を認定したのを目して被告人のこれに対する防御反証の方法を封じたとする非難は当らない。従って論旨は採用できない。

よって刑訴施行法二条、旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。

右は全裁判官一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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